ラジオドラマ「こんにちは、金光さま」第5回「神心」


●ラジオドラマ「こんにちは、金光さま」
第5回神心かみごころ

金光教放送センター


登場人物
 ・片岡かたおか次郎じろ四郎しろう  20代
 ・しょう(片岡の妻) 20代
 ・老人      70代
 ・教祖



次郎四郎 もう泣くな、泣いても仕方ないことだ。
庄 (泣きながら) でも…上の子が幼くして病で死に、次に生まれた子もまた、幼くして病にかかって死んでしまった…。いっそ私が代わってやりたいくらい…。
次郎四郎 俺だって何もしなかった訳ではない。家相や地相を見てもらい、家も何度となく作り変え、家の後ろにある溝まで変えた。
庄 今、世間では、米は凶作だ飢饉だと言っている中、この片岡の家の商いはうまくいき、暮らし向きにも困りませんのに、なにゆえ子宝の運に恵まれないのでしょう。
次郎四郎 泣くなと言っておる!
庄 あなたは悲しくはないのですか?
次郎四郎 うるさい! 同じことを毎日毎日繰り返し嘆いても仕方がない! 子どもが生き返るとでも思っているのか?
庄 我が子を十月とつきもおなかに抱え、やっと生まれたら、夜泣きする子に乳を与え育てる、いとおしくてなりません。そんな女の気持ちは男のあなたには到底分からないのです。そしていつも癇癪かんしゃくを起こしてどなりなさる。
次郎四郎 俺が癇癪持ちだと?
庄 ご自分で気が付いていないだけです。
 …もしかしたら…。
次郎四郎 何だ?
庄 何か災いをもたらすものにたたられているのかもしれませんよ。村の人は、「あの片岡の家は絶えるだろう、気の毒なことだ」などとうわさしています。ご存知なかったですか?
次郎四郎 何となく聞いてはいたが…。
庄 どこかの神様なり仏様へと、お参りした方がよいのではありませんか?
次郎四郎 どこか…など、いい加減なことを。
庄 …あ、そう言えば、先日出入りの商人が、大谷おおたにに金光様という生き神様がおられると話しておりましたよ。
次郎四郎 生き神様だと。
庄 何でも、親が子を抱くような慈愛に満ちた様子で迎えて下さったと、言っておりました。あなた、ぜひお参りに行って下さいな。
次郎四郎 大谷か…。
庄 峠一つ越えた向こうですよ。

次郎四郎 (独り言) 山道はやっぱりきついなあ…。さっきまで散らついていた雪が、本降りになって積もってきた。おー寒い…。おっと、この先の二股道は右だったか左だったか…おっ、右の方からお年寄りがやって来る。
 もし。
老人 はい。
次郎四郎 大谷へ参ります道はどちらの道でしょうか?
老人 私が来ました道です。
次郎四郎 ありがとうございます。後、どれほどの道のりでしょうか?
老人 一里半ばかりで。
次郎四郎 ありがとうございます。

(雪を踏みしめ少し歩く)

次郎四郎 (独り言) それにしても、今のお年寄りは、随分痩せ細っておられたが、今年の米の凶作で食べる物にも事欠いておられるのだろうか…。気の毒になあ。この寒さの中あのような薄着で…。そうだ!

(パタパタと走る)

次郎四郎 ちょっと、さっきのお方、お待ちください。
老人 何でしょう?
次郎四郎 この寒さの中、その姿では体にこたえます。私の着物を一枚。

(しゅるしゅると帯をほどき、着物のきぬ擦れの音)

老人 そのようなことは…。
次郎四郎 いえいえ、どうぞこれを着て行って下さい、私は若いから大丈夫です。
老人 ありがとうございます、ありがとうございます。

次郎四郎 はあー、やっと着いた。
教祖 おお、片岡さんよう来られました。
次郎四郎 は? どうして私の名前を…? もしや、あなた様が金光様…。
教祖 道中、結構なおかげを受けられましたなあ。
次郎四郎 おかげ、と申しますと?
教祖 気の毒なおじいさんに、あなたの着ていた着物を脱いで、着せてあげたでしょう。
次郎四郎 どうしてそれを…?
教祖 おかげとは、自分の物を人に上げたことが1つ。2つ目は我が身のことを忘れて人を助けたこと。そうして3つ目が、人をかわいそうと思う神心かみごころにあなたがなったということです。良いおかげを受けられました。
次郎四郎 はあー、そういうことでございますか。
教祖 人は生まれてくる時から、神様の心を頂いています。その心を大切にする生き方が大事なのですよ。かわいそうと思う心が神心です。さて…。
次郎四郎 は?
教祖 あなたはお神酒みきはお好きですか?
次郎四郎 お神酒と申しますと、お酒…?
教祖 はい。
次郎四郎 私は不調法でございまして。
教祖 それでは、一杯だけでも飲まれると良い。
次郎四郎 え?
教祖 お酒の好きな方には勧めません。そういう方はお酒にのまれてしまうから、飲まない方がいいのです。さ、どうぞ一杯だけ、冷えた体が温まりますよ。

(鳥のさえずり)
庄 すっかり春めいてまいりましたね。今日も金光様に月参りにいらっしゃるのですか。
次郎四郎 いろいろと、ありがたいお話が聞けるからなあ。
庄 そういえば…。
次郎四郎 何だ?
庄 あなたの癇癪持ちも、最近起こらなくなりましたねえ。
次郎四郎 何てことを言うのだ。
庄 ホホ…。
次郎四郎 うれしそうだな、癇癪持ちが治ったことがそんなにうれしいのか?
庄 いいえ、子どもを身ごもりました…。

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