ラジオドラマ「こんにちは、金光さま」最終回「今日は吉日」


●ラジオドラマ「こんにちは、金光さま」
最終回「今日は吉日」

金光教放送センター


登場人物
 ・太一たいち      40才
 ・さよ(太一の妻)同
 ・教祖


太一 おさよ。
さよ 何ですか?
太一 近頃おきぬの様子がおかしい、元気がない。あのおしゃべり娘がとんと無口になって、何ぞ病にでも掛かっているのではないのか?
さよ 私も気が付いてはおりましたがねえ…、特に体の調子が悪いということでも…。
太一 やはり先日の縁談を断られたのが、こたえたのだろうか?
さよ そういえば、あの頃からふさぎ込んでおりますねえ。お見合いの時、先方の方はおきぬが気に入っているようでしたのに…。
太一 わしが日柄をしっかりと見て決めた見合いの日だというのに、なぜだろう…? おきぬはこの村で、小町娘と言われている娘だ、断る先方の気が知れない。失礼千万な話だ、おきぬも心が傷ついただろう。おまえ、一度おきぬに話を聞いてくれないか? あの子はもう17歳だ、早く嫁入り先を探さないと。
さよ 分かりました。
太一 食事も進まないようだ。もし病なら玄庵げんあん先生の所に…。
さよ そんなこと分かっておりますよ。おきぬのことになるとおまえ様は大騒ぎなんだから…。お前様が自分でおきぬに聞いたらいいではありませんか。
太一 そういうことは母親が聞くものだ。

太一 それで、おきぬは何と言っていた?
さよ (くすくす笑う)
太一 笑い事ではない!
さよ だって…、あのお見合いの後、先方の方を送って行けとおまえ様は言いましたねえ。
太一 ああ、言った。
さよ おきぬは送って行って、ちょうど小川の近くまで行った時、いきなりやぶの中からイノシシが飛び出して来たそうですよ。
太一 何? イノシシ?
さよ ええ、おきぬは恐ろしくてびっくりして、腰を抜かしてしまったそうです。
太一 で、その、何だ、見合いの相手はおきぬを守ってやったのか?
さよ いいえ、「ギャー」と叫んで、一人で走って逃げられたそうで。(また、くすくす笑い)
太一 何と、情けない男よの、だから格好悪くて見合い話を断ってきたのか。
さよ 多分そうだと、おきぬは言っておりました。
太一 だったら、かえって相手がどんな男か分かって良かったではないか。
さよ そのとおりです。
太一 じゃ、なぜふさぎ込んでいる?
さよ その時に、畑仕事を終えた徳三とくぞうさんが通り掛かって、とっさに持っていたくわを振り回して、おきぬを助けて下さったそうですよ。
太一 ふん、徳三か…!
さよ おまえ様が徳三さんのおやじ様と仲が悪いからといって、それとこれとは話が違いますよ。徳三さんはおきぬの難儀を助けて下さったのです。そもそもおきぬと徳三さんは幼なじみで、子どもの頃はとっても仲が良かったのですよ。
太一 そんなこと、おまえに言われなくても知っている!
さよ それで…。
太一 何だ。
さよ おきぬが言いますのに、徳三さんの所に嫁に行きたい、昔から好きだったと。イノシシの件以来、時々会っているようですよ。
太一 許さん!
さよ だから、それが分かっているから、おきぬは悩んで、食も進まず、ふさぎ込んでいるのですよ。お分かりになりませんか。
太一 …。
さよ おまえ様が反対していると、そのうちに二人で駆け落ちするかも知れませんよ。おまえ様はおきぬが可愛いのでしょう、だったら好き合った人と。
太一 しかし徳三の家は方角が悪い。うしとらの方角、鬼門だ。そんな所に大事な娘をやれるか!
さよ また、そのようなことを。先日の見合いの時も、日柄がどうだとか、昼過ぎからなら吉だとか、おまえ様がいろいろと口出しして、あげくの果てには、「イノシシ」ではありませんか。一度おまえ様が信心している金光様に、お伺いしてみたらどうですか?

太一 金光様、実はこのような訳で、どうしたものかと考えあぐねております。
教祖 太一さん、神様が日柄方角などというもので、人を苦しめることはないのですよ。
太一 はあ…?
教祖 例えばどんな人でも、生まれてくる日と死ぬ日を選んできた人はないでしょう。
太一 ごもっともです。
教祖 晴れた日もあれば、曇った日もあり、雨の日もあれば、風の吹く日もあるのが自然の天候で。晴れた日が吉で、雨の日が凶ということもない。吉凶の区別もないのに、人間が日柄や方角でそのようなことを決めるのは、不便を自分で作り出しているのです。
太一 なるほど…。
教祖 結婚は両方の家の都合の良い日が、良い日柄となるのです。結婚後幸せに暮らすことが大切でしょう?
太一 はい、確かにそのとおりでございます。
教祖 娘さんが幸せになられるように、ともに神様にお願いいたしましょう。

さよ おまえ様、何をそんなにそわそわと。邪魔ですから、うろうろしないで下さい。
太一 こんな時に、お前は良く落ち着いていられるな。
さよ じゃ、私はあちらに。
太一 わしも。
さよ おまえ様は駄目です。
太一 おきぬが嫁いで1年余りで…こんな日が迎えら…。

(新生児の泣き声)

太一 生まれたー! でかしたぞー! おきぬー!

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