偏屈者の吾一じいさん


●昔むかし
「偏屈者の吾一ごいちじいさん」

金光教放送センター

朗読:杉山佳寿子さん

 昔むかし、ある小さな村に吾一というおじいさんがおりました。
 吾一は村の人たちに「東のじいさん」と呼ばれておりました。家が村の東にあったからです。そうして当然のように「西のじいさん」もおりました。2人はもうこの村に長いこと住んでいる、古株です。
 吾一は子どもがおらず、おばあさんはついこの間、はやり病で亡くなり、一人で暮らしておりました。
 吾一は毎日畑を耕しております。
 畑の前を通る村人が、「おはよう」と声を掛けますと、
 「ははーん、こんげな時が早いか、わしは一刻いっときも前から畑仕事をしておるわい」と答え、また、次に通った村人が、
 「今日はええ天気で働きがいがあるのう」と言いますと、
 「昼から雨が降るかもしれんわい」と答える偏屈なおじいさんでした。
 ある時、吾一は町に買い物に出かけました。町といっても小さな町で、おまけに小高い峠を越え、3里ばかりも歩いていかなければなりません。家を出て歩いていると、ばったり西のじいさんに会いました。
 西のじいさんは、
 「なあ吾一よ、一人暮らしは大丈夫か。何か困ったことがあったら、わしに相談をしておくれ」と言いますと、
 「ふん!」と言い、「わしは一人でせいせいしておる」と、憎まれ口をきくのでした。
 そして西のじいさんが、
 「どこへ行くのかい?」と尋ねますと、
 「どこだろうとわしの勝手だ」と答えます。
 「もし町に買い物なら、年寄りの足であの峠はきつい。石がゴロゴロしておって歩きにくいし、ろくに道らしい道ではないからな。町の買い物なら、わしの所の若い者に頼んでやろう」と言いますと、吾一は、
 「わしは人の世話にはならん。今まで人の世話になったこともない」
と言い捨て、どんどん行ってしまいました。
 さて、買い物を終えた吾一が峠の道を、
 「やはりきついなあ、わしも年か」と思いながら家の近くまで帰ってきますと、何やらただならない気配です。村人が集まり、焦げ臭いにおいが漂ってきます。
 「もしや火事!」と思い、痛む足を引きずるようにして走っていきますと、
 「早く気が付いて良かった」
 「これぐらいで済んで本当に良かった」と言う村人の声がします。何と吾一の家が火事に遭っていたのです。
 吾一の姿を見て、村人がわらわらと寄ってきました。そして口々に慰めの言葉を掛けてくれました。初めに火事に気が付いたのは西のじいさんで、それから村人を大声で呼び集め、皆で水を掛け、火を消してくれたのです。
 顔をすすだらけにした西のじいさんが、吾一のそばに駆け寄ってきました。
 「吾一よ、お前が大事にしていた亡くなったばあさんの形見のくしは、わしが家に入って取ってきたからな」と言い、懐からやはりすすだらけのくしを出して、吾一に渡しました。
 すると大工の芳蔵よしぞうが、
 「なあ吾一さんよ、わしが家の修理をしてやろう、何の3、4日もすれば元通りになるだろう」と言いました。そして村の女たちはもう吾一の家に入って片付けを始めました。
 吾一のしわくちゃな日に焼けた頬に、涙がぽとりぽとりと落ちてきました。今まで誰の世話にもならず自分でやってきたという思い、そして村の人たちを大切に思っていなかった自分。それなのに、こんなに村人たちは吾一に優しくしてくれるではありませんか。
 「神様はわしのかたくなな心を打ち砕いて下さった」。吾一は感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました。
 吾一の家は元通りになりました。大工の芳蔵は、
 「金などいらん、家にあった材木をちょっこし使っただけだ」と言いました。
 吾一は村の人たちへの感謝の気持ちをどう伝えたら良いか分かりませんでした。
 やがて、ある朝早く、吾一はくわを持って、町につながる峠道へと出掛けていきました。
 「1年掛かっても2年掛かっても、この峠を村の連中が通りやすい道にしてやるか」
 そう思ったのです。
  
 おしまい。

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