いのちをつないだ里芋


●先生のおはなし
「いのちをつないだ里芋」

金光教根雨ねう教会
佐藤さとうあい 先生


(ナレ)おはようございます。パーソナリティの大林誠おおばやしまことです。今日は皆様、どんな朝を迎えられましたでしょうか。
 さて、人間誰でも、子どもを授かると、健やかな成長を願わずにいられません。しかし今日は、妊娠中におなかの中のお子さんを亡くすという体験をされた、鳥取県根雨ねう教会の佐藤さとうあいさんのお話です。
 佐藤さんは、このことをどのように受け止められたのでしょうか。タイトルは「いのちをつないだ里芋」。

(本文)私は現在3人の子の母親として、慌ただしくも充実した毎日を過ごしています。
 8年前に鳥取県の根雨という町に引っ越してきました。主人と私と3歳の娘を連れての新天地。仕事に子育てに、頑張っていこうとしていたところ、待望の2人目を授かりました。
 喜びを噛みしめながら日々を過ごし、生まれてくる子をみんなで心待ちにしていましたが、妊娠6カ月の時におなかの中でほんとに静かに亡くなりました。
 産婦人科で先生がエコーを見ながら、「心臓が動いていない」とこわばった顔をして言われ、私は、あまりにも突然のことですぐには理解できず、頭が真っ白になったまま、いつもお参りしている金光教
米子よなご教会へ行きました。
 教会の先生に、「病院の先生から、お腹の赤ちゃんの心臓が止まっていると言われました」と言いながら、泣き崩れてしまいました。まだ実感も何もない状態なので、涙はすぐに収まりましたが、今度は震えが止まらなくなりました。先生がすぐに神様にお祈りをしてくださり、その間、先生のお母様がずっと私の背中をさすってくださいました。
 夜の7時過ぎでしたので、私が晩ご飯を食べていないだろうと、教会のご家族皆さんが、おにぎりやら、とろろ汁、野菜の煮物など、とにかくたくさん持ってきてくださいました。先生がお祈りをしている最中ではありましたが、先生のお母様がしきりに、「おかあちゃんの体が一番大事、子どもたちのためにもしっかり食べて体を整えなさい」と勧めてこられます。
 先生の祈る声を聞きながら、徐々に気持ちが落ち着いていく感じがありましたが、それでもその時の私は、食事がのどを通らないどころか、吐きそうな状態でした。
 そうこうしていると、夫が娘を連れて迎えに来てくれました。2人の顔を見てホッとすると、また涙がポロポロ出てきます。お祈りを終えられた先生が、改めて夫と私に、「あなた方が今、悲しんどること、神様も一緒に泣いておられます。この出来事が必ずおかげになっていくように祈らせてもらいます」と言ってくださいました。
 先生がお祈りくださったおかげで、先ほどのお母様の、「しっかり食べて体を整えなさい」という言葉が、神様のお言葉に思えてきて、こんな時に食べられるわけがないと思っていた里芋の煮っ転がしを一個、強引に口に入れました。
 その里芋がぐうっとのどの奥に入ってきて、閉じていたのどをこじ開けるように通り、ゆっくりお腹に入っていった感覚を今でも忘れません。その時食べることができたのは、里芋一個だけでしたが、そのおかげでのどが広がり、それから、深い悲しみの中にあっても、毎食しっかり食べることができました。
 妊娠6カ月の大きくなりかけたお腹を失った悲しみは、今までに経験したことのない深いものでした。
 しかし、気持ちが落ち込む日々も、神様に手を合わせおすがりしていると、同じような境遇に遭った人と出会わせていただき、その人たちの言葉に助けられました。神様がこの難儀と思える事柄を通して、私のここからの成長を願い、導いてくださっているように思えてきました。そして、このことを通して、家族の絆も深まりました。
 その後、間もなく長男を授かりました。長男が生まれる時、家族みんなが立ち会ってくれました。元気な産声を聞き、無事に生まれてきてくれたことに心からホッとしました。
 新生児用ベットで眠っている弟を見つめていた娘は、「骨にならなくて良かった」と静かに一言。その言葉にびっくりしましたが、その時初めて、この子は私が妊娠してからずっと、赤ちゃんが無事に誕生することを、一生懸命お願いしていたんだなあということに気付かされました。4歳の幼い子どもでも、生まれてくることが決して当たり前ではないと感じていたのです。
 短かい生涯であった我が子は、私たちに大事なことを教えてくれ、これからも私たちの中で生き続けていてくれます。
 つらく悲しい時ほど、神様は私たちに寄り添い、一緒になって立ち上がれるように働いてくださるのです。その先の成長を願ってくださるのです。
 今でも里芋の煮っころがしを見ると、あの時のどを開いてくださったおかげで今の私があり、長男、次女とも出会うことができたのだと、思わず手を合わせ拝みます。

(ナレ)いかがでしたか。佐藤さんはつらい状況の中、教会の先生のお祈りと言葉、またご家族の方々の温もりに触れ、大きな一歩を踏み出されました。
 私たち一人ひとりのいのちには、いろんな人たちの祈りや願いがこめられているんですね。このかけがえのないいのち、お互いに大切にしたいと思います。
 今日も最後までお聞きいただき、ありがとうございました。

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